月の涙
夜空に浮かぶ満月は、今夜も美しく輝いていた。その光は、地上のあらゆるものに影を落とし、静かな世界を作り出していた。しかし、その中には一つだけ、月の光に照らされない場所があった。それは、森の奥深くにある小さな池だった。 池の水面は、常に闇に包まれていた。そこに住む者は、決して月を見ることができなかった。それは、池の主である龍だった。 龍は、昔、人間と戦って敗れたときに、この池に封じられたという。その呪いは強力で、龍が池から出ようとすると、水が炎に変わり、龍を焼き尽くすという。だから龍は、ずっと池の中で暮らしていた。孤独な日々を送っていた。 龍は、月が好きだった。月は、龍にとって唯一の友だった。月は、龍に優しく話しかけてくれた。月は、龍に夢を見させてくれた。月は、龍に希望を与えてくれた。しかし、龍は池から出られないので、月を見ることができなかった。龍は、月に会いたかった。龍は、月に触れたかった。龍は、月と一緒にいたかった。 ある夜、龍は思い切って池から飛び出した。水が炎に変わり、龍の身体を焦がしたが、龍は気にしなかった。龍は空へと舞い上がり、月に向かって飛んだ。月は驚いて、龍を迎え入れようとした。しかし、そのとき、空から矢が飛んできた。それは人間の矢だった。 人間は、龍が池から出ることを知っていた。人間は、龍を恐れていた。人間は、龍を殺そうとした。矢は次々と龍の身体を貫いた。龍は苦しみながらも、月に近づこうとした。しかし、矢の傷が深くなり、力が尽きてしまった。龍は地上へと落ちていった。 月は悲しみに打ちひしがれた。月は泣き叫んだ。月は怒り狂った。月は人間を呪った。そして、月は自分の涙を地上に降らせた。それが雨だった。 雨は止まらなかった。雨は洪水を起こした。雨は人間の村を流した。雨は人間の命を奪った。 雨はやがて止んだが、月は二度と姿を見せなかった。夜空に浮かぶ満月は消えてしまった。 それ以来、人間は月の涙と呼ばれる珠を探し始めた。それは龍の鱗に月の光が宿ったものだという。それは美しくて貴重なものだという。それは龍と月の悲しい物語の証だという