彼女は雨が好きだった。雨の日は傘をさして歩くのが楽しみだった。雨の音に耳を傾けながら水溜まりを避けたり飛び越えたりして彼女は笑っていた。
彼は雨が嫌いだった。雨の日は傘を差すのが面倒だった。雨の音にイライラしながら、水溜まりに足を濡らしたり、滑ったりして不機嫌だった。
彼女とは彼は同じ大学に通っていた。同じクラスだったこともあったが話したことはなかった。彼も彼女のことを知らなかった。
ある雨の日彼女はいつものように傘をさして歩いていた。彼はいつものように傘をささずに歩いていた。偶然にも彼女は同じ道を歩いていて、向かい合ってしまった。
「すみません」と彼女は言って傘を少し傾けた。彼は何も言わずに頭を下げて通り過ぎようとした。その時彼女の傘から雫が落ちて、彼の頭に当たった。
「ちょっと!」と彼は怒って振り返った。「何やってんだよ!」
「ごめんなさい」と彼女は謝って驚いた顔をした
「わざとじゃないんです」
「わざとじゃなくても迷惑だろ!」と彼は言って彼女の傘をつかんだ。「こんなでかい傘さすなよ!」
「おかしいのはあなたですよ!」と彼女は言って、傘を起こした。「雨の日に不機嫌になるなんて損してるだろ!」
二人はそう言い合って傘を引っ張っり合っていた。周りの人々は二人のこと見て不思議そうにしていた。雨はますます強く降ってきて2人の服や髪や顔に当たっていた。
やがて、二人は自分の様子に気づいて、顔を見合わせていた。二人とも息が荒くて、目が輝いていた。二人ともお互いのことが気になって傘を離さなかった。雨は二人の間に距離を作らせなかった。雨は二人の心に火をつけた。
「あのさ」と彼女は言って彼の目を見つめた。「どうしてそんなこと聞くの?」
「だって俺のこと怒鳴ったり傘を引っ張ったりしたじゃん」と彼は言って彼女の手を握った。「それって俺に興味があるからじゃないの?」
「そんなわけないでしょ!」と彼女は言って彼の手を握りほどこうとした。「あなたが先に私に文句言ったり、傘を掴んだりしたんだよ!」
2人はそう言ってキスをした。雨は二人の唇を濡らした。雨は二人の愛を祝福した。